前回の記事でアルビノという個性を生まれ持った伊禮さんが、保育士になるという夢を諦めざるを得なかったこと、そして音楽という道に出会うまでについて詳しくお伺いしました。
(前回記事「できないことを理解したら、『自分の特別』が見つかった」)
今回は、そんな伊禮さんがミュージシャンとしての活動10周年を迎え、いま音楽を通して伝えたいことは何なのか、について迫りたいと思います。
「自分を許したり、人を許したりする余裕を持つことの大切さを伝えたい」
伊禮さんは今年で音楽活動10周年を迎えられたんですが、音楽活動を10年続けられる人ってすごく少ないですよね。
伊禮さんは以前は事務所に所属して活動されていましたが、いまはセルフプロデュースのかたちで活動していらっしゃいます。以前と今で、何か変化はありますか?
事務所に所属していた当時は、どんなステージに立っても、恥ずかしくないようなアーティストに育つようにと、場数は多く踏ませてもらいました。
あと、曲作りに関しては、自分のペースも大事だけれど、ある程度締め切りを守って曲を書いていくことの大切さを教えてもらったと思います。
遠征にでたり、ライブの本数も多いときに、1ヶ月で10曲書いてこい、みたいな事もありましたね(笑)
1ヶ月で10曲!大変だったでしょう。
大変でした(笑)でもそうやって作った曲の中から、改めてこの曲をよりよく仕上げようか、もっとこの分野を掘り下げてみよう、みたいなものが出てきたりして、コンスタントに作り続けることの大切さを学びましたね。
10年前といまとで、曲を作るスタイルとか伝えたいことは変化していますか?
私自身が大人になっていく中で、少しずつ考えとか態度みたいなものは変わったかも知れませんが、伝えたいメッセージは変わっていないと思います。
伝えたいメッセージ?
悲しい曲、楽しい曲、優しい曲など、色々な音楽がある中で、全部を通して感じ取って欲しいのは、穏やかに人生を過ごしていくこと。あなたにとって幸せなことをたくさん見つけてもらうこと。そのために自分を許したり、人を許したりする余裕を持つことの大切さを伝えたいのかな、と思います。
「何かに怒りをぶつけられているうちはまだいい」
そういうメッセージって、いままでの体験の裏返しだったりするんでしょうか?
いや、たぶん元々そういう性格なんだと思います。
人を許すということイコール、自分にも優しくなれるということだと思うんですよ。
最近は特に、SNSとかでいくらでも自分の言葉を発信できますよね。楽しいことばかり発信できればいいんですけど、マイナス面を吐き出す事もあると思うんですよ。
もちろんそれも構わないんですけど、そもそもストレスを感じない生き方ができればいいな、とも思うんです。
SNSとかで人の言葉を見ていると、その人の人生と何も関係ないことなのに、一体何に怒ってるんだろうと思う事があります。
人って、自分がみんなに愛してもらってる自覚であったりとか、そういうものを見つけられたときに優しくなれると思うんです。
でも自分が優しくされたければ、自分も優しくしないといけない。
それに、昔は友達をぜったい作りなさい、みたいな事を言われたものですけど、最近は一人でいる事もひとつの価値観として受け入れられるようになってきたじゃないですか。それって現代の象徴だと思うんですよね。
自分に合った、幸せな人との付き合い方を能動的に選べるようになってきた、と。
そうそう、もっというと怒りを何かにぶつけられているうちはまだ良くて、それができなくなったときが一番不幸だと思うんですよ。そういう人たちに、そういう命に、私の音楽が寄り添うことができればいいな、と思うんです。。
伊禮さんとのお付き合いは長いですけれど、機嫌の悪そうな伊禮さんって見たことない気がします。そうは言っても、やっぱりマイナスに感情を抱く時だってあると思うんです。そう言うときにプラスに気持ちを持って行く秘訣はありますか?
やっぱり自分にとって気持ちいいこと、楽しいことをするんじゃないですかね。
自分の趣味ででもいいし、私の場合は気持ちよくなれる声や音楽を聞くことで落ち着いたりもするし。あと単純に寝ちゃうことですかね(笑)
寝れないな、という人もいると思うんですけど、とにかく目を瞑って体を休めることかな。
自分の意見を貫くことで責任感がうまれる
僕なんかは面と向かって厳しい言葉を投げかけられたときとか、自分の思ってもないことを言われたときって、「は?」とか「え?」っていう言葉が出てきてしまうんですけど、伊禮さんはどうですか?
あ、私もそうなりますよ。でも、もしかしたら自分が間違っているかも知れないから、その場では言い返さないようにしてます。しっかり消化した上で、それでも納得できなければしっかり伝えるようにしています。
根が優しいんですね。
いやいや、気が弱いだけです。
正直それですごく悩んだ時期もありました。気が弱いのに自分の音楽をやっていく上で譲れないこととか、しっかり発信しないといけないことが出てきたときに、「そうじゃない」っていう事を伝えなきゃいけない。
でもそれがなかなか言えなくて、自分が間違ってたらどうしようとか、そっちの方が売れるんじゃないかとか、そういう想いが先に生まれるんです。
でも最近、自分の意見を貫き通すことで責任感がうまれることに気付いたんです。
だから、責任持てないことは言い返さないし、責任持てることはハッキリ言い返そうって思えるようになりました。
このインタビューの中で伊禮さんは「気が弱い」と何度かおっしゃいましたが、ステージの上の伊禮さんはぜんぜん気弱な人には見えません。
舞台に立つ時って一人じゃないですか。だから、みんながその場で言い返してくれたり指摘してくれるわけじゃない。お客さんは基本的に私のことが好きで来てくれている以上、私はこう思う、ということを責任を持って発信しないといけない立場なんだな、って気付いたんです。
「私はこう思ってるんですけど、みなさんどうですか?」っていう姿勢を大事にするようにしてます。その上でみなさんがどう感じるかはみなさんの自由。お客さんにお任せをする気持ちで歌ってます。
なるほど。お話を聞いていると、実直で時に厳しいご両親の元で育った、責任感の強い、それでいて優しい女性なんだな、と思います。
私は本当にラッキーだったと思ってます。
世の中にはあまり恵まれない家庭環境で育った人もたくさんいて、そういう人たちに「やさしくしよう」っていうメッセージを押しつけるつもりは全くありません。ただ、そういう方たちが人生を切り開くときに、私の歌が背中を押せたらいいなとは思っています。ちょっと力を抜くと楽になる事があるんだよって気付くきっかけになれたらいいですね。
音楽って単純にすごくいいものだと思うんですよ。良い音楽を聞いたときに「クーッ!いいなぁこの表現!」みたいなのってすごいあるんですよ。そういう世界も単純に知って欲しいですね。
素敵なメッセージですね。最近は音楽を聞く人が徐々に減ってきている気がします。そういう人たちにもっと音楽を聞いてもらうためにどうしたらいいと思いますか?
自分が自分と向き合うときに、より自分が見えやすくなるきっかけのひとつに使ってもらえたら良いんじゃないかな、と思うんです。
それが本の人もいるだろうし、人と話すことかもしれないし、お酒を飲むことかも知れない。その中のひとつとして音楽を聞くってすごくいい選択肢だと思うんですよね。
音楽って一言に言っても、表情とか人格とかそういうもの全て含めて音楽だと思うんです。昔はどれだけ偉そうで横柄であっても、才能さえあればそれでいいっていう時代があったと思うんです。でもいまはそういう事も含めて全部丸裸にされる時代じゃないですか。だから、あまりに傲慢な人はミュージシャンとしても成功しないんじゃないかと思うんです。
いままでにも何回か、誰でも知っているような有名なミュージシャンと共演する機会がありましたけど、長く活動している方々はみなさん本当に謙虚な態度でいらっしゃいます。
私はこれからもずっと、そういうミュージシャンでありたいと思います。
伊禮さんの音楽は、多くのファンにとって「癒し」なのだと思います。
ただ単に優しいだけでは人を癒すことはできなくて、人間としての芯の強さや思慮深さがあってこそなのではないでしょうか。
インタビュー中も伊禮さんは終始笑顔で、編集部員3人と楽しく優しく接してくれました。
「人と違うんだから、人と違うことをすればいい」
「ちょっと力を抜くと、楽になることがあるんだよ」
そんな伊禮さんからの力強いメッセージを糧に、suocilléは船出をしたいと思います。
Text by DJ Nobby (@787nobby)
Hair / Make Up by 比屋根リサ (@hiyanelisa)
Photo by ノビス (@nobis2017)