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-人と違うんだから、人と違うことをすればいい。そんな父の言葉が背中を押してくれた-

シンガーソングライター・伊禮恵
インタビューVol.1

Text by DJ Nobby (@787nobby) Sep 15, 2018

できないことを理解したら、『自分の特別』が見つかった

--画一的な「あるべき像」から脱却し、ひとりひとりが生まれ持った個性を大切にしながら生きる時代になった。

SNSの存在が身近になり、やがてそれが生活に欠かせないツールとなったいま、これまでなら「マイノリティ」とされていた個性を武器にして人生を切り開く人が増えてきたように感じる。

自らの個性としっかりと向き合う。

それは簡単なようで、実はとても勇気がいること。時として自分が知りたくなかった現実を突きつけられることもある。


「悪く言う人はいなかったですけど、からかわれることはよくありました。

たぶんみんなビックリするからだと思います。

私も気が弱かったから、それに対して言い返したりすることは少なかったと思います。

だから、そのぶん家族には色んな思いをぶつけてきたかもしれない」

--そう話してくれたのは、生まれつき肌や髪、瞳などのメラニン色素が少ない「アルビノ(白皮症)」という個性を持つ、シンガーソングライターの伊禮恵(いれい・めぐみ)さん。

透き通るような白い肌をした伊禮さん。彼女の美しい髪は染色しているわけではなく、生まれ持った色なんだそう。

ステージで演奏する伊禮さんを見ていると、彼女が奏でる美しいメロディと相まって、何か特別に神聖なものを見ているように感じます。

YouTube-「雨に煙る街/伊禮恵」


suocilléの記念すべき第1回は、編集部3人全員一致で伊禮恵さんにご出演をお願いしました!

自ら「気が弱かった」と語る伊禮さんが、かつての目標を諦めてシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートするまでの道のり、そして活動開始10周年を迎えた伊禮さんが歌を通して伝えたいことについてお話を伺いました。


伊禮 恵

いれい・めぐみ

7月26日生まれ A型
大阪府大阪市出身の「身近な風景と心情を描き『少し疲れた心』に届く詩」を歌うシンガーソングライター。

2011年3月、ミニアルバム「新しい朝」でCDデビュー。
2012年、2ndミニアルバム「光を集めて」をリリース、タイトル曲が、ABC朝日放送「ビーバップ!ハイヒール」エンディングテーマとなる。
2013年4月、1stシングル「365日」(ABC朝日放送「見知らぬ関西新発見!みしらん」EDテーマ)をリリース。カップリング曲「はんぶんこ」は、理研産業補聴器センターのCMソングに採用される。
2014年年7月、初のフルアルバム「音文-otobumi-」をリリース。
2016年5月Go!West Recordsに移籍、同時に3rdミニアルバム「それでも明日は希望に満ちて」をリリース。

現在は活動拠点を東京に移し、さらに多くの人と関わる中でより多くの疲れた心を癒やす音楽を奏で続けている。

あんたそれはムリやで


僕と伊禮さんは5-6年のお付き合いになります。そういう意味では人生の6分の1ぐらいは伊禮さんと知り合いなんですよね


私も人生の5分の1ぐらいNobbyさんと知り合いですよね。このあいだ30歳になったので。


えーーー!30歳!活動10周年でもありますよね。おめでとうございます。


ありがとうございます。


今日は伊禮さんの生い立ちからシンガーソングライターになるまでのこと、そして音楽を通して伝えようとしていることなどについてお話を聞きたいと思っています。
まずはじめに、アルビノについて色々と教えて欲しいな、と思うんですが。。。


ほんと、なんでも気にせず聞いて下さい。


体の特徴のことでもあるので、正直ちょっと聞きづらい気持ちもあったんですが。。。例えば小さいころ、アルビノのことを悪く言われるようなことはなかったですか?
僕たちの世代って、茶髪にすることの是非が真剣に議論されたりした時代と重なっていて、そういう意味で髪の色が人と違ってることで辛い思いをしたこともあったのかな、と思うんですが。


そうですね、自分ではあまり覚えてないんですけど、学校でからかわれたりして、親に相談したこともあったらしいです。私も気が弱かったから。



髪の毛を黒く染めたいとか、そんなことを言ったりしたんですか?


染めて欲しい、は言わなかったかも。相談された母も「あんたはあんたやろ」という感じで接してくれていました。
私の姉は小学校の頃はすごく気弱な性格だったんですけど、私のことをからかわれたりするとかなり強気に言い返したりしてくれたらしいです。
家族のそういうスタンスにはすごく救われた気がします。


素敵なご家族ですね。でもやっぱり小さい頃はからかわれたりしたんですね。。。


いまはアルビノもだいぶ認知されてきたんですが、昔は原因不明だったし、子供って人と違うこととか珍しいことに素直に反応するじゃないですか。

アルビノって、見た目が少し違うだけじゃなくて、人によっては視力が悪かったりするんです。私も眼振(がんしん)といって焦点がうまくさだまらない症状があるんです。

(編集部注:眼振とは、眼球がけいれんしたように動いたり揺れたりすることの医学的な名称です。視力の低下を伴うことがあり、伊禮さん自身も近視の症状があります)

わたし実は、中学校とか高校の頃は本当は保育士になりたかったんです。


保育士、ですか!


そうなんです。少し年の離れた親戚の子供とかがよくなついてくれて、それがとても楽しかったんですよね。いまも姪っ子とかいますけど、たぶん私のことをお姉ちゃんとかじゃなくて友達だと思ってる(笑)

でもあるとき母親にそのことを話したら「あんたそれはムリやで」って言われたんです。


じぶんに、特別を見つけた


え?!お母さんが?


もちろんちゃんと理由があって、私1人で大切なお子さんを何人も面倒見ないといけないわけじゃないですか。私の視力だとやっぱりそれは難しいし、私が親だったら確かに預けるのは不安だろうなと思うんです。


それを聞いてどう思ったんですか?


あ、そうなん?ムリなん?って思いました(笑)
ムリなんか、そうかー、じゃあなんか違うことを探さないとなって。
最初はなんとなくOLでもやるかなーと思っていたけれど、当時から音楽が大好きだったんです。

だから、高校を出て進路を選ぶときに両親に相談したら、お父さんが「自分にしかできないことで、人のためになればいい。人と違うんだから、人と違うことで自分を活かすことを考えたらいい」って言ってくれたんです。

普段はそんなことを言わない人なんですけど、その決断のときはすごく背中を押してくれた。


その言葉でミュージシャンになることを決心したわけですね。


それがそうでもないんです。自分にどれくらいできるか分からないし、自分が歌が上手いなんて全く思ってなかったんですよ。シンガーソングライターなんて特別な人だけができる仕事だと思ってました。
でも、専門学校に入って学んで行くうちに、自分でも作れるということに気が付いたんです。


進路を決めるまでに音楽を作った経験はなかったんですか?


1回だけ、高校の修学旅行で沖縄に行ったときに、自分で作った曲を演奏したことがあるんです。沖縄の高校生との交流プログラムみたいなのがあって、現地の高校生がダンスを披露してくれるっていうことだったので、それのお返しに曲を作って、音楽部の友達5人と一緒に演奏したんです。


そのときの曲は?


「海」って言うタイトルの失恋ソングでした。実体験じゃないですよ?(笑)
でも、そのときの体験で、じぶんに特別を見つけた、という感覚があったんです。

それまでは見た目は目立っていたけど、性格はマジメに取り組むタイプ、成績も中の中、本当に目立たないキャラだったんです。

でもそうやって自分が作った音楽でみんなが喜んでくれて、ちょっとチヤホヤしてくれるのがすごく嬉しくて、それが進路を選ぶ時期と重なったんですよね。



子供が進路を選ぶとき、多くの親は保守的な選択を薦めるものだと思うんですが、伊禮さんのお父さんはそこが違った。そういう重要なところではいつも背中を押してくれる存在だったんですか?


自由にさせてはくれるんですが、割と厳しいって言うか、道を間違えないようによく叱られていた感じはありますね。
でもそうやって背中を押してもらったから、ここまで10年も音楽を続けて来られたんだな、と思います。

伊禮さんはとても穏やかで柔らかな人柄でありながら、しなやかな強さを兼ね備えている人だな、と常々感じていました。

身体の特徴を捉えてからかわれたり、視力を理由に目標を変えざるを得なかったりと、いくつもの壁を乗り越えてきたからこその強さなのだな、と再認識した取材となりました。

そんな体験をこてこての大阪弁で語る伊禮さんの言葉を通して、人と違う特徴を持っている人生をちょっとだけ疑似体験させてもらえた気もします。

人と違うんだから、人と違うことをすればいい--この伊禮さんのお父さんの言葉は、多くの人を勇気づけるものではないでしょうか。

次回は、そんな伊禮さんがミュージシャンとしての活動を通して伝えたいことはなんなのか、に迫りたいと思います。

続編はこちら→(前回記事「恵まれない環境にいる人に「ちょっと力を抜くと、楽になることがあるんだよ」と伝えたい」)

Text by DJ Nobby (787nobby)

記念すべきsuocillé第1回目の撮影


今回はsuocillé第1回目の取材のため、東京・根津にある「日本一ハードルの低いレコード店『block』」さんにお邪魔したのですが、

壁一面のレコード!そして高そうなオーディオ機器!!!

「どうぞ自由に動かして下さい、そして終わったらなんとなく戻しておいて下さい」とユルい指示を下さった店主さん・・・ありがたく自由に使わせて頂きました。

今回の取材、ヘアメイクは編集部員の比屋根リサ(@hiyanelisa)


撮影はこちらも編集部員のノビス(@nobis2017)でお届けしました!